津波災害により10歳で孤児となった花(二階堂ふみ)は、親戚の淳悟(浅野忠信)に引き取られる。北海道紋別の小さな港町で暮らしていたが、地元の顔役・大塩(藤竜也)が流氷の海で変死する事件が起き、2人はひっそりと町を離れる。原作は桜庭一樹の直木賞受賞作。監督は熊切和嘉。最初の方、昔の日本映画っぽい画面のざらつきを再現している(作中時間が進むと画面がクリアになっていく)のだが、この演出は賛否わかれそうだ。
 熊切監督は小説・漫画の映画化作品を頻繁に手掛けているが、原作を自分の方に引っ張ってくる傾向が強い(それが悪いというのではなく、監督によって引き寄せの度合いが違うということ)と思う。本作も、原作者が見ているのとは別の部分を監督は見ようとしているんじゃないかなという気がした。ただ、映画化する場合は、原作に沿いすぎない方が成功率が高いと思っているので、この方法でよかったんじゃないかと思う。
 冒頭から、主に花の目線で物語は進行する。花が初めて淳悟に会った時、既に「私の男」としてロックオンしているのがわかり、ぞわりとした。だが、徐々に淳悟側の目線に寄っていき、最後には淳悟が見た花が映し出される。その姿は、圧倒的に「わからないもの」とされているように思った。2人が紋別を離れてからもしばしば、紋別の流氷を背にした情景が回想される。あの時が2人にとって最もお互いに「わかっていた」時であり、お互いかけがえのない存在でありつつも、以降は徐々にわからない存在になっていく。過去にピークがきてしまった(にも関わらず解消できない)関係性のきつさみたいなものを感じた。原作を読んだときは(時系列をさかのぼる構成だったからかもしれないが)そういうきつさはあまり感じなかったのだが。原作のある映画の場合、こういった差異が出てくるのが面白い。
 花役の二階堂は中学生時代から成人してまで10年くらいの時間を演じていることになるが、学校の制服姿にもあまり違和感がない。元々対応力ある人だなぁと思っていたが、本作でもそれが発揮されている。大人と子供が入り混じったようなあまり穏やかではない存在感があり、彼女ありきの映画ではあると思う。また、浅野の、最初から予兆はあるがどんどん崩れていく感じの存在感が素晴らしい。この手のろくでなしだが魅力的な男を演じると際立っているな(笑)。色気あってすごくよかったし、これは浅野でないとちょっと微妙な感じになる役だったと思う。