ジョン・ル・カレ著、加賀山卓朗訳
ハンブルグに現れたイッサという密入国者。彼はやせ細り体中傷だらけだった。プライベートバンクの経営者トミー・ブルーの元に、イッサの弁護士、アナベル・リヒターから連絡が入る。イッサはブルーに助けてもらえると思っているというのだ。いぶかしむブルーだが、彼にイギリス情報部員が接触してくる。一方アナベルにもドイツの“外資買収課”が接触していた。現代のスパイ戦はテロとの戦いに形を変えている。スパイたちが一般の人たちをからめとり、時に脅して利用していく様はなかなかにいやらしい。さらに、利用される側が利用する側に時におもねるようになるという心理が、なんともいえないぞわーっとした気持ちになる。だんだん何と戦っているのか、これが本当にテロを防ぐ目的になっているのかわからなくなってくるのだ。そのわからなさ、不明瞭さこそが現代の諜報戦ということなのだろうか。著者の作品の中ではかなりリーダビリティが高い方だと思う。一気に読んだ。