アメリカ東部の小さい町に住むアデル(ケイト・ウィンスレット)とヘンリー(ガトリン・グリフィス)親子。アデルは離婚後、鬱病に悩まされており外出の頻度も減っていた。ある日、買い物に出たアデルとヘンリーは脱獄犯のフランク(ジョシュ・ブローリン)と遭遇し、強要されて自宅に匿う羽目になる。フランクは危害を与えないと約束し、家の修理や家事を手伝う。徐々にアデルとフランクは惹かれあい、ヘンリーもフランクを慕うようになる。原作はジョイス・メイナードの小説。監督はジェイソン・ライトマン。
 ジェイソン・ライトマン監督って、今まで撮った(日本で公開された)映画ほぼ外れなしだと思う。恐ろしい打率の高さ。今回は、今までとは打って変わってメロドラマ風(邦題のせいもあるだろうが)なのでどうなのかなと思ったら、相変わらずの安定感で感心した。
 ひょんなことから自宅に転がり込んできた男が、日曜大工も車の修理も料理も掃除もこなすという、まさに王道メロドラマ!どこのハーレクィン小説だよ!という設定ではあるのだが、これを中学校進学を控えた少年の目を通して描いていることで、ちょっと距離感が生じて落ち着いたトーンになっている。性の興味も芽生える年齢の少年なのでもっと生々しくもなりそうなところ、わりと品よくまとめていると思う。アデルとフランクが一緒にパイ生地をこねるシーンなどもっとエロティックになりそうなものだが、そうでもない(子供の前でやっているからってことかもしれないけど)。
 ジェイソン・ライトマンの監督作はどれもそうだけど、ちょっとしたシーンで、この人はこういう人だ、こういう状況にいるんだという提示の仕方が巧みな作品だと思う。冒頭、アデルが車を出そうとするがうまくいかない、彼女が後ろを見たすきにヘンリーがギアをRからDにこっそり直すというシークエンス。たいして長くはないのだが、アデルが精神的にかなりまいっていること、ヘンリーが彼女を守ろうとしていることがさらっとわかる。情報のまとめ方がうまいのだ。
 ヘンリーはアデルに対して良い息子であろうとし、さらに夫の代りもしようと懸命に彼女をフォローするのだが、自分では無理だという自覚もある。そこにフランクが現れることで、父親のように相手をしてもらうことで心が浮き立つ一方、アデルにはもう自分は必要ない、邪魔者として取り残されるのではという不安も抱くところが、まだ子供らしい。その不安が思わぬ結果を生むことにもなるのだが。
 ヘンリーはアデルのことをとても思いやっているが、アデルもまたヘンリーのことを、彼女なりのやりかたではあるが思いやる。そしてフランクも、短い時間ではあるがアデルとヘンリーを思いやり、愛する。2人の人生を守るための彼の行動、そして「その後」には胸が詰まる。「その後」は物語上やりすぎだと思う人もいるかもしれないが、私はこの「その後」をあえて加えたことにこそ心をうたれた。誰かを思いやる気持ちと、それを受けて誰かの人生が変わることもあるということを信じたくなるのだ。