実業家のハル(アレックス・ボールドウィン)と結婚し、セレブとして華やかな生活を送っていたジャスミン(ケイト・ブランシェット)。しかしハルが逮捕され一文無しに。サンフランシスコに住む妹ジンジャー(サリー・ホーキンス)の家に転がり込むが、庶民的なジンジャーの暮らしが肌に合わず、見つけた仕事にも慣れず、神経をすり減らしていく。それでもセレブに返り咲こうと奔走する。監督はウディ・アレン。
 アレンの女性に対する視線は大概辛辣だが、本作でも同様。ただ、ジャスミンは確かに「イタい女」ではあるのだが、私はどうも嫌いにはなれなかったし、本作における彼女に対するまなざしは、下に見てあざ笑うという風ではなかったように思う。
 ジャスミンは自分はジンジャーのような安い女ではない、歯科医院の受付の仕事など自分にふさわしくない、自分にはそれ相応に扱われる価値があると思っている。しかし彼女がかつてセレブとして獲得していた価値は、彼女自体ではなく、彼女が纏う衣服やアクセサリー、住んでいる屋敷やそのインテリアなど、彼女の外側、身も蓋もなく言えば彼女の夫のお金に付随するものだ。彼女自身に付随する価値は外見の美しさくらいで、それもうまく役に立つとは限らない。セレブであることは彼女のアイデンティティであり、だからこそセレブ生活に返り咲きたくて必死なのだが、アイデンティティが自分の中にあるのではなく自分を取り囲むものによって形成されていると、一旦周囲が崩れた時の、自分自身の何もなさが際立ってしまう。
 ただこれはジャスミンが「勘違い女」だから、というだけではなく、誰しも多少はこういうことあるよなというもので、彼女をイタいと思うと同時に、彼女を見ている自分にもそのイタさが降りかかってくるものなのだと思う。裸一貫で戦える人はなかなかいないだろう。
 ジャスミンは過去の華やかな生活を諦められず、現在の状況に適応しようとしない、過去の自分が自分のあるべき姿だと信じる人だ。しかしそんな彼女が、返り咲くチャンスをつかもうとした時、「過去の時分と今の自分とは別、過去は関係ない」と主張せざるをえない。あんなに過去にこだわっていたのに、なんとも皮肉だ。過去は彼女の回想として現れるので、そもそもそういう過去は本当にあったのか?とも思えてくる。