自動車整備工場を営む両親に育てられた斉木順(水谷豊)は、大学進学を反対され、親の援助を受けてスナックの営業を始める。しかし、同棲している幼馴染の常世田ケイ子(原田美枝子)とは別れろと迫られ、父親(内田良平)を刺殺。順をかばおうとした母親(市原悦子)も殺してしまう。原作は中上健次の短編小説『蛇淫』。長谷川和彦監督、1976年のデビュー作となる。
 順のスナックは成田空港近くにあるのだが、まだ空港建設反対デモ等が行われていて、さすがに時代を感じる。順は自分でも具体的な理由がわからないまま両親を殺してしまい、いっそ堕ちるところまで堕ちたいという衝動を抱えつつ、逃亡することも堕ちることすら頓挫してしまう。おかしくも哀しい青春物語だ。順の弱弱しさにもケイ子のずぶとさにもイライラするが、これがあの時代の「若者」という感じだったんだろうか。少なくともケイ子に関しては、今だったらこういう、度直球に無学でエロいという女性描写はないだろうなと思うが。
 今見てみると、出演者がかなり豪華。主演の水谷と原田はいわずもがなだが、母親役が市原だし、順の元同級生役で地井武雄と桃井かおりが出演時間は短いものの登場する。桃井かおりはこの頃から桃井かおりとして完成されてたんだなと妙におかしかった。それにしても、水谷も原田も若い!水谷は今もあんまり雰囲気が変わっていないところがすごいのだが、「青春」の雰囲気をずっと纏っている俳優なのかなと思う。
 最も凄みを見せるのは母親役の市原だろう。息子を溺愛し、独占しようとする母の妄執には鬼気迫るものがあった。市原悦子って美人ではないけどこの頃は妙に色っぽく、息子といても男と女みたいな雰囲気が出てくるところが面白い。こんな母親だったら、そりゃあ殺すくらいしか逃れる方法ないかもね、とうっかり思ってしまうくらいの濃さだった。

青春の殺人者 HDニューマスター版 [DVD]
水谷豊
キングレコード
2014-02-12

蛇淫 (講談社文芸文庫)
中上 健次
講談社
1996-09-10