トマス・H・クック著、駒月雅子訳
犯罪・虐殺行為を取材し続けてきたノンフィクション作家のジュリアン・ウェルズが自殺した。ウェルズの幼馴染の友人・フィリップは、新刊の出版も間近だった彼がなぜ死を選んだのか疑問に思い、ジュリアンの妹と共に彼の足跡を追い始める。ジュリアンは身近で消えたある女性を探していたらしいのだが。著者の最近の「人名」シリーズは、ある人、そして語り手の過去の罪を辿っているが、本作は特にやりきれない思いにさせられた。彼の「罪」の大本が決して悪意によるものではなく、ちょっとした出来心が発端なのだ。彼が善良であり、守りたいものがあったからこそ苦しんだと言える。彼の歩んだ道を受けてフィリップがたどり着く境地もまたやるせない。ジュリアンの言動の端々に見えてくる、彼にとって何が悪であり罪であるかということが、真相に直結しており、流石の構成の上手さ。