失業して故郷ダブリンに戻ってきた時計職人のフレッド・デイリー(コルム・ミーニー)。しかし住む所を失い、失業手当ももらえず、車で寝泊りするホームレス生活を送る羽目に。同じくホームレスの青年カハル(コリン・モーガン)と知り合い、彼と接する仲で徐々に元気を取り戻していく。ある日フレッドは、ピアノ教師ジュールス(ミルカ・アフロス)に一目ぼれする。監督はダラ・バーン。
 舞台はアイルランドだが、アイルランド・フィンランド合作作品。ジュールスがフィンランドからの移民という設定にそのへんの事情が反映されているのだろうか。実際、ヨーロッパ圏からの移住が増えているということもあるのだろうが。
 フレッドはホームレス状態ではあるが、身なりを整えるべく苦心している。自分の車には歯磨き、髭剃り用のセットが完備されており、おお機能的!とひざを打ちたくなるシーンもあるのだが、その努力はやはり涙ぐましい。家がない、職がない、ということが、彼からどんどん自信を奪っていくのだ。衣食住足りてなんとやらというのは、本当なんだよなーと痛感する。ジュールスにアプローチするにも、ホームレスだということが引け目になって積極的に振舞えないし(元々シャイそうな人ではあるが)、彼女に自分の境遇を打ち明けることも出来ない。ジュールスの自宅で、整えられた室内にどぎまぎする様は痛ましくもなってしまう。本当はこういう人ではないんだろうなぁという感じが、時計職人としての腕は良さそうなだけに強まるのだ。
 落ち込み気味なフレッドを浮上させるのがカハルだ。ドラッグ依存症という問題を抱えながらも軽やかで、フレッドに人生には楽しい瞬間がある、ということを思い出させていく。フレッドの止まった時間を再び動かすのはカハルだ。ただ、軽やかゆえに足元おぼつかなく、彼が辿る顛末は痛ましい。最期、フレッドはカハルの父親に会いに行くが、今度はフレッドが、カハルの父親の止まった時間を動かしたのだと思う。


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現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書)