アメリカ、オハイオ州のある高齢者介護施設。入居者の多くは認知症を患っていたが、日本で開発された認知症改善プログラムを導入することになった。スタッフと入居者が一緒に簡単な読み書きや計算を行なうというものだが、それにより入居者にも変化が生じる。約1年をおったドキュメンタリー。監督は風間直美・太田茂。製作が仙台放送なのでなんでかなと思っていたのだが、認知症改善プログラムの開発者が、「脳トレ」で有名な東北大学の川島隆太教授(ご本人も登場する)だった。本作で実施されるプログラムは、脳トレの応用的な、短期記憶をよみがえらせる効果を狙ったものだそうだ。
 認知症は、患っている本人も辛い(特に初期段階では自分でも記憶や行動がおかしくなっていくのがわかるだけに不安だろう)だろうが、家族など周囲の人間も辛い。その人の記憶、その人らしさを形成していたものが失われていくことや、家族のことを思い出せないことにショックを受ける人は少なくないだろう。本作に出演する家族も、「頭ではわかっているが、つらい」と漏らす。理屈ではしょうがないとわかっていても、自分のことを否定されるような言動をとられるとやっぱり傷つく。認知症改善プログラムは、当人だけでなく家族にとっても希望になるのだ。
 プログラムをこなすことによって入居者の言動が徐々にしっかりとしたものになり、表情も生き生きとしていく様には驚いた。個人差はあるだろうし、痴呆が完全に治るというのではなく、比較的状態のいい(ぼうっとしておらず、話しかけると反応があり会話ができる)時間が長くなる、という程度の改善ではあるが、家族にとっては自分たちの知っている母親であり祖母であったりが戻ってくという喜びがある。自分のことを思い出せなくても、言動にその人らしさがあれば多少ほっとできるのかもしれない。
 また、プログラムを実施してからの方がスタッフの入居者に対する接し方がより生き生きとしたものになる、接しやすくなるという指摘には目から鱗。短期記憶が回復するとスタッフの識別ができるようになったりするという事情もあるだろうが、相手の性格やこれまでどういう暮らしをしてきたどういう人なのか、という部分がより見えてくることによって、「~さんという人」というバックグラウンドを個人としての認識が自然と強まるのだろう。もちろん、認知症が進んだ状態であってもスタッフは誠実な対応をしていたと思うし、施設に不備があったわけではないだろう。それでも、相手の反応の違いによって行動の変化は無意識に生じてくるのかもしれない。


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