中学生のみなみ(中村ゆりか)の前に、男性の幽霊が現れた。彼女はその男性、ニシノユキヒコ(竹野内豊)と子供の頃に会っていた。ユキヒコの葬式で彼とよく話をしたというササキユリ(阿川佐和子)に出会う。女性の気持ちの察しがよくて優しく、ルックスもいいユキヒコはとにかく女性にもてた。しかし彼女たちはいつも自分から去っていく。原作は川上弘美の同名小説。監督は井口奈己。
 井口監督、待望の新作。新作撮れててほんとよかった・・・。ほっとしました。私は監督の前作『人のセックスを笑うな』にはいまひとつ乗れなかったのだが、本作はいいなと思った。原作小説のタイプの違いもあるが、大分ファンタジー寄りになっている。しかしふわっとして口当りが良さそう中にふいに苦味が広がったり、男女の寄る辺なさが感じられたりする。登場するひとたちの関係性は、総じてどこか頼りなく、ふとしたことでほどけてしまいそうだ。破綻、というほどには劇的でなく、なんとなく溶けてしまうような淡さだ。
 しかしその淡さの中、中学生であるみなみの存在が、風穴のようになっていた。最後、みなみの母・夏美(麻生久美子)がふとした拍子に彼女に告げる言葉、これを彼女に聞かせるためにこそ、ユキヒコは現れたのではないかとも思えるのだ(なんといっても、「女の子の望みがわかっちゃう」んだし)。
 竹野内主演映画だが、彼が主役、という感じはあまりしない。むしろ、ユキヒコと関わっていく女性たちの方が存在感がある。特に、彼の同僚であるマナミ(尾野真千子)の言動は、急に触れられた時の表情とか隙を見て身だしなみを整える感じとか、いちいち生々しい。また、阿川佐和子の可愛らしさには参った。えーかわいいな!という新鮮さが。
 もっとも、竹野内の存在感がない、というわけではない。ぎりぎり生々しくならない「もてそうな男」感を体現していて、予想外によかった。一歩間違うとただの女癖のだらしない男になってしまいそうなところ、なぜか「いい人」感が出ているのは竹野内の人徳なのではなかろうか。正直、発音が不明瞭でセリフが聞き取りにくいところも多いのだが、ユキヒコが何を言ったか、ということはこの話ではあまり重要ではないのだと思う。彼に反応した女性がどうするか、と言うことの方が物語を動かしている。
 あからさまに重要そうには扱っていないのだが、犬、猫、インコや蜘蛛にいたるまで、動物の使い方が上手くて感心した。プロっぽくない(笑)動物の動きでただそこにいる、という感じが出ていたし、過度な可愛さがない。特にインコの使い方は良かった。彼(彼女?)の動きで一気に幽霊話っぽい不穏さが出たと思う。


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ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)