スペインのマドリッドからメキシコシティに飛び立った旅客機が、機体トラブルで空中旋回を続けるはめになった。いら立つ客をなだめようと、3人の客室乗務員は歌って踊ってカクテルを振る舞う。しかし、政界・財界の大物と噂があったSM女王、不正がばれて逃走中の銀行頭取、霊能者など、客も曲者ぞろいだった。監督はペドロ・アルモドバル。
 アルモドバル監督は今や名匠扱いされてるけど、本来はこういうクドくて下ネタがえげつない、ポップな作風だったっけなぁとなんとなく懐かしい気分になった。いわゆる端正・洗練路線の人ではないのよね。
 密室群像劇的な面もあるコメディだが、コンパクトに(結構無理やり)纏めており楽しかった。時間も短めなのがいい。私は本来下ネタ苦手な方なんだけど、本作はセックスからスカトロまで下ネタ満載なのにもかかわらず、愉快に笑えた。なんでかなーと色々考えてみたのだが、アメリカのコメディ映画見ていると「下ネタ言っちゃったオレ」的なドヤ顔っぽい感じがしてうんざりすることがある。本作にはそういった気負い、「わざわざやっている」感がなく、ごくごくスムーズに会話の中で展開されていく(当然いちいちドヤ顔しない)。自然なのだ。下ネタが板についている、ってのも変なんだけど、こういう下ネタだと嫌な気持ちにならないんだなぁと改めて発見した気分になった。また、ネタがセックスに関わっていても、男性に対しても女性に対しても性差別的な要素が薄い(と思われる。そう思わない人もいるかもしれない)のも、あまり嫌な気分にならない一因だったかもしれない。
 男性も女性も、ヘテロもゲイもその間の人たちも、等しくシモい。人間の美しい部分も下劣な部分も、キュートな部分もダメな所も、全部ひっくるめて、まーいいじゃない!人間って面白い!って気分になってくる。アルモドバル作品の根底には、人間の多様さ、自由さに対する肯定があると思う。好き勝手にやっている人ばかり出てくるようにも見えるが、だからこそ楽しいし、息をするのが楽な感じがする。


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