ピアニストのティモ(サムリ・エデルマン)の元を、3歳の時に別れて以来、一度も会っていない父親のレオ(ベサ=マッティ・ロイリ)が訪ねて来る。家族や友人に会いに来たというレオは、ティモを無理やり連れ出して旅を始める。監督はミカ・カウリスマキ。
 ふらっと出現する「父親」レオは、ちょいちょい違法行為をするし、自分勝手だしだらしないのだが、どこか憎めない。可愛げがあるのだ。しかしその可愛げ故に、余計にイラつく人もいるのではないかと思う。最終的には許されると思ってるだろ!と突っ込みたくなるのだ。レオは人たらしなところがあるが、こういう素養って生まれながらの資質によるところが大きいので、あまり人と接するのが得意でない人は太刀打ちできない。急に出てきた人に美味しい所を持っていかれた、みたいな気分になることもあるだろう。レオの昔の仲間もそう思ったのではないだろうか。
 ティモはレオの自由さにイラつくのだが、徐々にそのあり方を許容していく。この許容できるかどうかという所は、個人差が大きくて、レオみたいな人が相手だとダメな人は(許容したいと思っていても)ずっとダメだろう。私もレオは嫌いではないが、ちょっと許せないかもしれないなと思った。レオが仕事のことばかり気にしているティモの携帯電話を湖に捨ててしまうシーンがあるのだが、あれは映画のシーンとしては面白いけど無神経だよなと思った。携帯電話は、おそらくフリーで仕事をしているであろうティモにとっては、今まで築いてきた信頼の象徴ではないかと思う。確かにティモもピリピリしすぎで融通も利かないのだが、人が大事にしているものをそういう扱いすることはないだろうと。
 ともあれ、レオの出現は、頑なだったティモの心をほぐし、肩の力を抜かせていく。レオが闖入者として間に入ってくれたおかげで、別居していた妻子とやり直しの糸口が見えたともいえる。ただ、この闖入者としての役割だったら、父親じゃなくても(それこそ「寅さん」みたいな人でも)よかったんじゃないかという気がするが。父親である、ということの有無を言わせなさを感じる。
 父息子が関係を再構築するロードムービーというと、何か湿っぽくなりそうだが、湿度は低い。脱力したユーモアで、涙を流させない匙加減の良さがあるし、そこが上品だと思う。涙を搾り取ろうとするのは下品(というより安易か)ではないだろうか。
ゴー! ゴー! L.A. デラックス版 [DVD]
ビッグ・フィッシュ コレクターズ・エディション [DVD]