何世紀にもわたっていき続ける吸血鬼のアダム(トム・ヒドルストン)とイヴ(ティルダ・スウィントン)は恋人同士。アダムはデトロイトでミュージシャンとして活動し、イヴはタンジールで先輩吸血鬼のマーロウ(ジョン・ハート)と交流していたが、久しぶりにイヴがアダムの元を訪ねてきた。しかしイヴの妹でトラブルメーカーのエヴァ’ミア・ワシコウスカ)が押しかけてくる。監督はジム・ジャームッシュ。
 ヒドルストンとスウィントンが裸で眠る姿はどこか死体のようだ。人間の形をしているけれど人間ぽくない、いいキャスティングだと思う。吸血鬼役の3人はちょっと特殊俳優なんだよね(笑)。特にヒドルストンは今までかっこいいと思ったことがなかったのだが、本作では確かにちょっとかっこいいなと思った。年齢不詳、年代不詳な衣装(そのガウン何十年着てるんだって感じだけど・・・)も似合っている。
 アダムが楽器コレクターで宅録しているというのが、ちょっと昔のサブカルこじらせ青年みたいで笑ってしまった。彼は楽器に限らず物や場所に対する拘りが強いみたいだ。対してイヴはスマートフォンを使いこなし身軽に飛び回る。楽器を手放すことを渋るアダムに「最高の楽器を買ってあげるわ」とさらっと言う思い切りの良さ、軽やかさが対称的だった。イヴの妹エヴァは更に軽やか、というか軽くて無軌道。どうやら吸血鬼たちにとって、彼女の無軌道さや衝動的な振る舞いは見苦しいらしい。しかし、一番生き生きとして見えるのはエヴァだ。
 彼ら吸血鬼は、人間の遺産とされている過去の芸術作品の誕生に多々関与しているという。彼らは文化を愛し、人間をゾンビと呼ぶ。ジャームッシュ作品としては異例なくらい、既存のアーティストに関する言及が多い。ジャック・ホワイトへの言及はジャームッシュの好意が滲み微笑ましいのだが、他の言及は(あれもこれも出てきて節操なく見えるからかもしれないけど)ちょっと鼻についた。つまり、アダムもイヴもスノッブさが鼻につく人ってことなのかもしれないが(笑)。そんな、優雅で文明的な彼らも、最後は本能に立ち返らずにはいられない。結局人間とどっちもどっちだ。そんな、美に徹しきらないおおらかな部分がいい。


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