療養の為に田舎町オーベル・シュル・オワーズに滞在するゴッホ(ジャック・デュトロン)は、世話になっている医者ガシェ(ジェラール・セティ)とその娘マルグリット(アレクサンドラ・ロンドン)と親しくなっていく。ゴッホはマルグリットを絵のモデルにし、2人の仲は深まっていくが。監督はモーリス・ピアラ(1991年)。特集上映「フランス映画の知られざる巨匠 モーリス・ピアラ」にて。本作デュトロンはセザール賞男優賞を受賞している。
 史実に忠実な歴史劇・伝記映画というより、ある「お話」としてゴッホとその周囲の人たちを描いていると思う。ゴッホの死までの数年間を描くが、途中途中で思い切った時間、空間の省略がされていてだらだら感はあまりない。作中には、ゴッホの作品にこんな感じの人の肖像画があったな!とはっとさせる、モデルとなったと思しき人達も登場する。また、風景や建物には、ゴッホのあの作品の現場はここだな、と特定できそうなものも。ゴッホの部屋も、絵に描かれた部屋に忠実に作りこんでいる。実在の絵画作品と呼応するように配慮されており、ゴッホ作品好きには楽しいのではないかと思う。
 また、私にとっては風景にまず心を捉まれた作品だった。光線がきらきらと眩しく、この地が画家たちに好まれたというのも頷ける。ゴッホの作品だけでなく、同時代(だけじゃないけど)の他の画家の作品ぽいなと思った所が多々あった(川辺でのダンスはルノワールのようだし、野山や農家は実際にこの地を訪れていたドーミエやピサロの作品を彷彿とさせる)。
 登場する人々がゴッホを筆頭に生き生きとしている。ゴッホの存在にはもちろん力があるのだが、むしろ周囲の人たち、特にちょっとしか出てこない人たちの魅力が強い。個々の登場人物に関する情報はそんなに提供されないのだが、ちょっとした部分の見せ方で、その人が実際にそこにいる、という説得力を感じさせる。マルグリットのピアノの教師にしろ、ゴッホのルームメイトにしろ、本当にちょろっと出てくるくらいなんだけど、妙に造形が具体的でくっきりしている。だからなのか、ゴッホを主人公とした物語というだけでなく、群像劇のようにも見えた。特に女性たちのたたずまいがよかった。マルグリットを含め、出来すぎではなく、普通の(ちょっと魅力的な)女性としてそこにいる感じがした。


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