アレハンドロ・サンブラ著、松本健二訳
サンティアゴに住むフリオには、学生時代、エミリアという恋人がいた。しかし彼女は死んでフリオは生きている・・・。表題作「盆栽」は、フリオとエミリアの人生を時代を前後しながら描く。盆栽は、フリオが書こうとしている小説のモチーフだ。もう一篇の「木々の私生活」では、作家のフリアンが妻の帰宅を待ちながら、幼い娘を寝かしつけるため、自作の物語を聞かせる。どちらも小説、愛した者の不在(ないしは失われそうな予感)がモチーフになっており、だからこそ人生の美しい瞬間が焼きつく。「木々の私生活」の最後のパートの美しさよ。ラテン文学というとボリューム感があり猥雑、濃密だという印象があったが、本作のように端正でミニマムな作品もあったのかと新鮮だった。作文の文章例のような几帳面できりつめた、同時にどこかアンバランスな文体が印象に残る。ちなみに作中で、フリオとエミリアはお互い『失われた時を求めて』を読破したと見栄を張ってしまうのだが、こういうシチュエーションだと大体『失われた~』か『ユリシーズ』が使われるような気が(笑)


盆栽/木々の私生活 (EXLIBRIS)
美しさと哀しみと (中公文庫)