染色家の知子(満島ひかり)は妻子ある作家・慎吾(小林薫)と長年暮らしている。ある日、かつて知子が夫と子供を捨てて駆け下ちした相手である青年・涼太(綾野剛)が訪ねてくる。原作は瀬戸内寂聴の同名小説。監督は熊切和嘉。
 年上の男と年下の男の間、その間を行ったり来たりする女の三角関係。知子は慎吾にも涼太にもそれなりの愛情がある。慎吾は知子と涼太との関係を許容するが、涼太は慎吾の存在に嫉妬する。若いからというよりも、そういう性分なのだろう。そのくせ、知子の旅行中には慎吾を訪ねて一緒に酒を飲んだりしている。慎吾があまり動じないのは、知子と重ねた時間が長いという自信があるからだろうし、知子にとっても同様だろう。ただ、時間の積み重ねと言えば聞こえはいいが、知子が悟るように慣れということでもある。別に慣れでもいいじゃない(停滞し続けるのも結構気力体力いるし、動き続けるのとはまた別の努力がいるし)とも思うが、知子は停滞せずに変わっていきたいという方向を最終的に選んだのだろう。
 知子を勝手な女だと言う人もいるだろうが、いわゆる悪女という感じではない。良くも悪くも正直で、あまり小細工がない(というかそういうことは不得意なんだろうなーと)。感情が先に立つことが多い人なので、苦手な人は苦手かもしれないが、面白い。涼太との関係が運命的に始まったのに対し、慎吾との関係はなりゆき上みたいなところも、なんだかおかしかった。
 満島、小林、綾野の3人がそれぞれとてもよかった。満島はちょっとセリフ回しが聞き取りにくいのだが、それでもあまり問題がない。仕草や表情の方が雄弁で、具体的に何をどう言ったか、ということがあまり意識に残らなかった。
 俳優もいいが、それ以上に本作のMVPなのは美術面だろう。これ、セットにしろ小道具にしろ作るの楽しかっただろうなぁ。知子宅の室内など入魂の一作という感じだ。舞台は1950年前後なのだが、映画のポスターで舞台となった時代がわかるというところもにくい。


夏の終り (新潮文庫)
海炭市叙景 Blu-ray BOX(Blu-ray Disc)