エミリー(ルーニー・マーラー)は、インサイダー取引で収監されていた夫(チャニング・テイタム)の出所を迎える。しかし夫の不在中に発症した彼女の鬱病は悪化する一方だった。かかりつけの精神科医バンクス(ジュード・ロウ)は新薬を処方。薬により鬱状態は改善されたが、副作用で夢遊病が出るようになり、やがてエミリーは無意識状態のまま夫を殺してしまう。監督はスティーブン・ソダーバーグ。
 106分というコンパクトな作品だが密度は高く、派手ではないが息をつかせない。脚本が『コンテイジョン』のスコット・Z・バーンズだそうで、手際の良さには納得。余計な説明はなく展開は速いが、わかりにくくはない。ただ、意識的に誰が何をしたと言う部分の「何を」に余白を持たせている。「彼女」の行動も「彼」の行動も、解釈のしようによってはどうとでも取れる。なされたことはわかるが、「彼」「彼女」がどこまでそれを意図していたのか、という部分にはあえて隙を作っている。明瞭なのに曖昧という不思議な余韻が残った。
 この明瞭かつ曖昧、という不思議な味わいは、本作が前半はエミリー視点、後半はバンクス視点で描かれているという構成からも生まれていると思う。前半でエミリーが起こした事件により、バンクスは窮地に立たされる。それを挽回しようと、彼はエミリーが本当は何をしたのかを突き止めようとするのだ。同じ出来事であっても、立場が違えば見えるもの、相手に見せようとするものが違う。A面とB面みたいな構造で、両方見ると事件の全容がわかる(ような気がする)。しかし、エミリーの/バンクスの視点だからこそ映し出されない、隠されている部分もある。お互いに補完しきれているわけではなく、彼/彼女にとっての「本当のところ」は、曖昧なまま残っているのだ。
 最近のジュード・ロウは、美形は美形なのだが、なんだか面白い方向に向かっていて目が離せない。そういう意味ではマシュー・マコノヒーに通じるものがある(笑)。マーラーは小柄で細身で一見頼りなく、「守ってあげたい」キャラということなのだろうが、個人的にあまりルックスに魅力を感じないので、彼女の周囲の反応がいまいちぴんとこなかった。


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