アレックス・グレシアン著、谷泰子訳
1889年のロンドン。切り裂きジャックの恐怖により市民からの信頼が地に落ちた警察の威信を回復しようと、ロンドン警視庁に殺人捜査課が創設された。しかし部員はわずか12人。しかも刑事の1人が奇怪な死体となって発見される。捜査担当になったのは新米刑事のディだった。舞台はヴィクトリア朝ロンドンで、この時代の生活様式や風俗が丹念に描かれ面白い。が、作者はアメリカ人なのね(笑)。上下巻とボリュームがあるが、終盤に向かうにつれ一章が短く感じられ、視点切り替えのペースも小刻みになり、話を追いこんでいく構成のうまさがある。複数の刑事その他の警察関係者、そして犯人の視点から描かれる。どのキャラクターもキャラが立っていて、キャラクター小説としても結構楽しめた。まだ科学的な捜査方法はもちろん、殺人事件の捜査方法自体が確立されていない中、刑事たちが奔走する。人員の足りない中、形はそれぞれだが様々なものとのせめぎ合いの中、頑張る刑事達の使命感にぐっときた。何より刑事たちの人柄が(短所も含め)いい!人の可愛げのある部分の作り方が上手いのだ。訳もこなれていてとても読みやすいが、会話文が現代的すぎるかなという気もする(原文がそうなのかもしれないが)。時代小説現代語訳版とでも思えばいいのか。なお、ディの妻は料理が下手で、キュウリのサンドイッチすらまずいというのだが、キュウリのサンドイッチをまずく作るのって逆にすごいスキルだと思う・・・。


刑事たちの三日間 上 (創元推理文庫)
刑事たちの三日間 下 (創元推理文庫)