ロンドンで妻・マリオン(バネッサ・レッドグレーブ)と暮らすアーサー(テレンス・スタンプ)は偏屈な老人で息子とも不仲。マリオンを合唱団「年金ズ」の練習に送り迎えするのが日課だ。しかしマリオンのガンが再発。彼女の代わりにアーサーが合唱に参加することになるが。監督はポール・アンドリュー・ウィリアムズ。
 町がいなく感動できる「いい話」なはずなのに、どうももやっとする。話の転がし方がどうにも雑だからだと思う。アーサーが合唱に加わる経緯も、ちょっと後だしじゃんけん的な設定が混在しているし、クライマックスの作り方もそんな無茶な!という感じ。何より、アーサーが合唱に加わるのはともかく、ぽっと出の彼が独唱することを良く思わないメンバーも合唱団内にはいるんじゃないかしら・・・といらん心配してしまった。こういう経緯をもうちょっと丁寧に見せてくれればいいのに。合唱に関するエピソードは正直そんなに出来は良くないし、音楽的にもあまり面白み、新鮮味はない。ロックやポップスを唄う老人合唱団といえば『ヤング@ハート』という名作ドキュメンタリーが思い出されるが、『ヤング~』を見てしまうと本作の音楽はどうにも物足りない。
 主軸はむしろ、老夫婦の関係性だろう。アーサーは病身のマリオンを介護しているが、マリオンは感謝しつつも負い目に思っている様子は見せない。喧嘩中でも「それはそれ」という態度なのが、長年の付き合いっぽい。この域に達するまでには色々あったんだろうなあと思わせる。アーサーはなんだかんだ言ってマリオンが大好きなのだ。彼女の合唱に向ける情熱にイライラしたり、合唱団に当たり散らしたりするが、それも愛ゆえだろう。妻の寿命が縮まるようなことは本人が望んでいてもさせたくない、衰えた妻の姿を他人に見せたくないというのは何かわかる。ある意味夫婦の「あがり」の話だとも思う。
 音楽的にはさほど面白くないと前述したが、「True Colors」の使い方にはぐっときた。まさにこの曲!という使い方。ここだけ涙ぐみそうになる。



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