上田早夕里著
ホットプルームの活性化により陸地の多くが水没した25世紀。人類は危機を乗り越え、陸上民、海上民に別れて確執は絶えないものの、再び繁栄を謳歌していた。日本政府の外交官・青澄は海上民との対立を改善する為、海上民の長の一人、ツキソメと呼ばれる女性と会談する。2人には通じ合うものがあったが、政府閣僚同士、また国際機関のしがらみにより計画は頓挫する。一方、国際環境研究連合(IERA)は地球の変調により人類がかつてない危機に直面すると予想、ある計画を密かに実行に移す。第32回に本SF大賞受賞作。受賞も納得の力作。特に、こういう環境化でこういう条件があったら、こういう社会になるだろうというディティールの詰め方に説得力がある。科学と生きる側、自然と共存する側というような安易な対立軸をつくらず、各派閥の動向がそれぞれ呼応し、連鎖した結果としての現状という、どうにもならなさと格闘し続けなければならない、ある意味逃げ場のない話なのだが、その中で人間の強さと弱さとが繰り広げられる。人間の人間らしさとは何か、という問いへの答えにもなっているようなラストだったと思う。壮大な話ではあるが、青澄の外交官としての動き方、矜持にはお仕事小説としての面白さも。