ニューヨーク・タイムズ紙でファッションコラムと社交コラムを長年担当している、名物フォトグラファーのビル・カニンガム。50年近く撮影とコラム執筆を続けており、彼に撮影されることはニューヨーカーたちにとって名誉なこととされている。しかし業界関係者であっても、そのプライベートを知る者はほとんどいないと言う。そのカニンガムに2年にわたり取材したドキュメンタリー。監督はリチャード・プレス。
 私はファッションのことには疎いので、カミンガムの名前は何となく知っている程度だったし、彼の写真や撮影スタンスは本作で初めて知った。彼の審美眼、作品の凄さは正直よくわからないのだが、美しいものを撮ろうとする情熱はすごく伝わってくる。撮影にしろ編集作業にしろ、彼独自の審美眼、ファッションに対する信念があって、それを忠実に、的確に捉える為にエネルギーの全てを注ぎ込んでいる感じがする。彼の私生活も垣間見えるが、そもそも私生活らしいものが殆どない人なんだろうなと。本作撮影当時はカーネギーホールのアトリエに住んでいるのだが、ごく小さい部屋で家具はベッドのみ、他はフィルムをしまうキャビネットに占領されている。バスルームは共同で、おおよそ快適な住まいとは程遠い(同じ建物に住む女性写真家のアトリエと対称的だった)。もちろんパートナーはおらず長年一人暮らし。食事もサンドイッチばかりで質素だし、自分が着る服はブランドものというわけでも、際立ってオシャレというわけでもない(が、長年気に入った同じようなものを着続けていることで、独自のスタイルが確立されているところが面白い)。基本、名誉欲も物欲もあんまりない人なんだろうが、本当にストイックでびっくりする。
 カミンガムは好きでこういう生活をやっていて、満足しているのだろうが、愛する世界を追求する過程では、切り捨ててきたものも多かったのではないかと思わせる場面もあった。映画終盤で、撮影者が彼にある質問を投げかける場面なのだが、カミンガムのしばしの沈黙が重い。やはり思うところあるんだろうなと。また、デリケートな内容だけに、よくこの質問をさせてくれたなと思った。はぐらかしつつも彼がちゃんと回答しているということからも、撮影者との間に信頼関係が築かれているとわかる。こういう、クリティカルな質問をどこでどう切り出すか、回答を引き出すかというところは、ほぼ撮影者の人柄、倫理観に左右されるのだろう。良質なドキュメンタリーを作ろうとすると、どのように撮るか、編集するかという倫理は必ず問われてくると思う。