主にロックミュージシャンのポートレートで有名な写真家アントン・コービン。被写体や家族ら関係者へのインタビューを通して、4年に渡り彼を追ったドキュメンタリー。監督はクラーチェ・クイラインズ。
 U2、アーケイドファイア、デペッシュ・モード、ルー・リードにメガデスと早々たる顔ぶれが登場するので音楽ファンにも楽しいだろう。私はアントン・コービンの作品は知っていたが、彼自身については殆ど知らなかった。オランダ出身だということも本作を見て初めて知ったくらい。しかし、生い立ちの話や故郷の風景を見ると、人間が育った環境(家庭環境、風土)からの影響を払拭するのは相当難しいのではないかと思った。コービンが育ったのは田舎の牧師館(父親が牧師)。周囲の風景は彼が撮影場所としてしばしば好む、だだっ広い野山だったり殺風景な町並みだったりする。牧師館、教会の中の薄暗さ、明暗のコントラストも、モノクロを好む作風に影響しているように思った。私はコービンが映画監督として撮った映画『コントロール』『ラスト・ターゲット』が結構好きなのだが、風景の好みがコービンと似ているからかもしれない。実在の場所、人物が基にある『コントロール』はともかく、『ラスト・ターゲット』はロケ地をコービンが選んでいるわけだが風景がすごくよかった。
 コービン自身「プロテスタントっぽさを払拭しようとしてみたけど無理だったね」と苦笑するシーンがある。彼の話から窺う限りでは厳格な家庭だったみたいだし、故郷は結構辺鄙なところっぽいので、ロックを愛し写真家を目指すような人にとっては、結構生きにくい環境だったのではないだろうか。写真家という彼の職業についても、理解を得るのは難しかった様子が窺われる(老いた母親に「写真家になることをどう思った?反対しなかった?」と聞くと「反対しないわけないじゃない!」と言われていた)。彼の映画監督デビュー作である『コントロール』はジョイ・デヴィジョンの伝記映画ではあるが、彼自身の青春時代の鬱屈も重ねられているのかなとも思った。
 一方で、気難しい人なのかと思っていたら、U2の面々と冗談言い合っていたり、現場は結構和やか。ポートレートを撮る写真家にはコミュニケーション能力が必要というが、一見シャイそうな人なので意外といえば意外。ただ、U2のボノが「(コービンの撮る)写真のような自分になりたい」と言っているので、相手の一番魅力的な部分を割り出す能力に優れているということなのだろうか。相手に心を開いて親しみ合うというのとはまたちょっと違う様子。コービン本人が「写真の仕事はあんまり相手と深く関わらないから・・・」といったことを口にしているし。