トラブルばかり起こしている青年ロビーは、あわや刑務所送りになるところを、恋人の出産が間近なことを考慮され、社会奉仕活動300時間を課せられた。奉仕作業指導者のハリーはウィスキーマニアでロビーにもその面白さを教えてくれる。そしてロビーには、意外な才能があることが発覚する。監督はケン・ローチ。
 持たざるものの一発逆転劇として、後半は『オーシャンズ11』か!と突っ込みたくなる意外な展開を見せる。ケン・ローチ監督にしては珍しく軽いコメディ風の作品に仕上がっているが、根が真面目なのでコメディ、軽さが板についていない感じもした。ロビーが仲間達と企む計画も、あれっそんなんで成立するの?と突っ込みたくなる部分が多々ある。話の線を成立させることに意識が向いていて、線を構成する点の一つ一つは「とりあえず体裁整っていれば」という印象が強い。単に、ローチがウィスキーに興味ないだけかもしれないが・・・。そもそもロビーたちの計画って犯罪だよな、そうでもしないと一発逆転なんてムリというシビアな話なのかと、楽しい話なのに落ち込んでしまう。
 しかしよくよく考えてみると、監督は後半の「計画」にはあまり重きを置いていない、本当に描きたかった部分は他にあるのではないかなと思った。ハリーはそう裕福というわけではなさそうだが、子供の誕生祝にロビーにとっときのウィスキーを振舞ったり、ウィスキー醸造所への見学ツアーに連れて行ったりする。また、ロビーが恋人と赤ん坊と一緒に、一時的に部屋を貸してくれるという恋人の知人宅を訪ねるエピソードがある。瀟洒な家を案内して、自由に使っていいのよと言う知人に、ロビーはなぜ親切にしてくれるのかと訪ねる。知人は、「私も昔、人に助けられたから」と答える。非常にシンプルではあるが、自分にちょっと余剰が出来たときには人にちょっと分け与える、助け合って生きることしか、現実の貧困を打開する術はないのでは、というが、本作の中心にあるのではないか。だからこその「天使の分け前」(本来はウィスキーの長蔵中に蒸発する成分のことを言う)なのかなと。
 ケン・ローチ作品はどれも主人公のたたずまいに説得力がある、この世で生きて生活している手ごたえがあるのだが、本作もそこは同様。ロビーがどういう境遇にいてどんな問題を抱えているのかということを、冒頭の短時間でサラっと見せていて手際がいい。家を借りる金がない、定住所がないから就職も難しいし、本人によれば「顔の傷のせいで」面接では門前払い。生活を立て直したくても、立て直す土台部分のバックアップがないとどうしようもないというリアルな部分が描かれていた。