マーク・アレン・スミス著、山中朝晶訳
企業や政府、犯罪組織等から依頼を受ける拷問のプロ・ガイガー。彼は厳しいルールに従って仕事を完遂していたが、ある日緊急の仕事を依頼される。対象者は、ガイガーにとって「ルール違反」となる子供、画商の息子エズラだった。自他は思わぬ方向に動き、ガイガーはエズラを連れて逃げる羽目になる。サイボーグのように正確な仕事を規律に従いこなしていくガイガーが、徐々に逸脱していく。それと同時に、過去の記憶と向かい合っていく。ガイガーの仕事は非人道的だし言動も非人間的。それが、予想外の事件から徐々にほころび、それまでの生き方から逸脱していく。少年を守り、仕事上の相棒との関係に一歩踏み込んでいく。特にかかりつけの精神科医コーリーに対する信頼感の度合いの変化は、彼が本当に「信頼する」覚悟ができたんだと思わせる。彼が人間としてもう一度生まれ直す過程と、ある機密を巡る逃亡劇とが重なり、スリリング。常に冷静で強靭な「プロ」だが、過去の記憶を(自分では意識せずに)恐れているガイガーのキャラクターがいい。「わたしにはそれがいちばん納得できるのだ、とだけ言っておこう」というセリフが彼の人柄を象徴している。また、最初は打算的だった相棒のハリー、本当にガイガーの「友達」になっていく過程にもぐっとくる。