有栖川有栖著
1988年4月、新入生の有栖川有栖は、江神二郎と偶然出会ったことから、英都大学推理小説研究会(EMC)に入部する。江神、望月、織田の先輩たちと遭遇する奇妙な謎の数々。アリス入学から、マリアの入部までの1年間を描いた短編集。著者の代表作といえば“学生アリス”のEMCシリーズ、“作家アリス”の火村英生シリーズの2本柱。本作はEMCシリーズ初(そして著者によれば多分最後)の短編集だ。火村シリーズはいわゆるサザエさん方式を採用しているが、本作は時代設定がはっきり決まっている。当時の時代背景、風俗が結構描かれているので、80年代に青春を送った方たちには懐かしいところもあるかもしれない。携帯電話がない(ポケベルすら出てこない)時代だったんだよなぁ・・・。短編本格ミステリとしては非常にオーソドックスな「やけた線路の上の死体」もいいが、我々はなぜ本格ミステリを愛するのか、本格ミステリとは何なのか、という要素の詰まった「除夜を歩く」に胸が熱くなる。有栖川先生はほんといい人だな(笑)!本格ミステリ界の良心ですよ・・・。なお、「『ナイン・テイラーズ』が入手困難」というネタに、そんな時代もあったなと懐かしくなった。