パン一切れを盗んだ罪で19年間服役し、ようやく仮釈放となったジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)。司祭の家の銀器を盗み再度逮捕されそうになるが、司祭は銀器は差し上げたのだとバルジャンをかばう。生まれ変わり人生をやり直すことを決意するバルジャン。8年後、彼は企業家となり、市長にまで出世していた。しかし刑事ジャベール(ラッセル・クロウ)に正体を見抜かれてしまう。
 ヴィクトル・ユーゴーの小説を原作としたミュージカルを、トム・フーパー監督により映画化した本作。私はミュージカルは未見なのだが、原作はそれなりのボリュームだから、ミュージカル化の際に原作をかなりアレンジしているのではないかと思う。本作はいわゆる「ミュージカル映画」とはちょっと違って、セリフがほぼ全部歌になっている、もろ「ミュージカル」な作り。しかし、時代考証や美術面はおそらく、原作小説に寄せたリアルなもの。それが「ミュージカル」としての骨組みとミスマッチなように思った。細部は精緻なのに筋立ては大雑把、登場人物の行動は唐突なように見える。それが駄目だというのではない。ミュージカルの文法の中ではそれで正解なのだ。ただ、本作は中途半端に映画の文法が入っているので、違和感が出るのだと思う。ミュージカルと映画(ミュージカル映画であっても)は作品内の文法というか、時間の流れ方が違うのだろう。
 また、人の顔のアップがやたらと多くて、見ていて疲れた。たまに出てくる山並みやパリの町並みの鳥瞰図など、結構気合入った出来なのに、カメラがぐるぐる動いて堪能できない。人を映すにしてもせめてもうちょっとロングショットが多ければ・・・と思ったが、本作が「ミュージカル」だとすると、人の顔ばかりなのも腑に落ちる。ミュージカルに限らず舞台劇は、基本的に舞台上の人を見るものだもんね。
 なお、出演者は全員自分で歌いながら演技していてアフレコはなしだそうだ(歌は当然、演じた当人の歌)。ミュージカル経験のあるジャックマンはもちろんだが、全員予想以上にうまい。クロウが若干見劣りする程度か。特にマリウス役のエディ・レッドメインがやたらと上手い!発声法がもう堂に入ってる感じ。