ポール・オースター著、柴田元幸訳
妻と最悪な別れ方をし、仕事を辞め、ガンが見つかり、死に場所を求めるように故郷・ブルックリンに戻ってきた初老の男・ネイサン。久しぶりに再会した甥トムや、くわせものの古書店主、そして突如現れた姪の娘と暮らすうち、彼の日常は変化していく。題名の「フォーリーズ」は「愚か者」のこと。ネイサンは人々の愚かな行為を書き記すというあまりよろしくない(笑)趣味を持っている。本作の序盤では何箇所か、彼が記した愚行がな引き合いに出されている。しかし、彼のこの趣味はやがてなりを潜める。むしろ、彼自身が、傍から見たら愚かとも見える行動をとっていくのだ。しかしネイサンたちは楽しそうだし、どんどん生き生きとしてくる。彼らもあまり褒められたものではない、難点が色々ある人たちなのだが、難点や愚かさひっくるめてその人のチャーミングさになってくる。ネイサンの友人となるゲイの古書店主がいいキャラクターだった。いわゆる山師的な男で、過去には詐欺もしたことがあるし更にまた、大掛かりな詐欺を計画している。そんな人でも、心の中に美しい想像の王国があるというところに深く共感した。ネイサンとその周囲の再生の物語、だが最後に背景となる時期が明示されはっとする。あの事件に対するカウンターとしての小説でもあると思う。