円城塔著
飛行機の中に漂う着想を捕まえる銀色の網、正体不明の作家を捜索する機関、そのエージェントと「蝶」が交錯する表題作、不思議な翻訳合戦を描く『松ノ枝の記』の2編を収録。表題作は第146回芥川賞受賞作。どちらも「小説を書く」ことのメタファーになっている・・・というのはあまりに陳腐な感想か。表題作は蝶と網が大きなモチーフになっているが、作品自体がこっち側、あっち側、といったりきたりする、編み物とか刺繍とかの動作に似ている構造だと思った。そういえば『松ノ枝の記』もこっち側、あっち側をいったりきたりという感じの作りだ。行ったり来たりするのだ。メタファーなどなんだの考えなくても、実にクールで読んでいて心地いい。このわからなくても精緻で心地いい文体は、著者の強みだと思う。