ベテランスカウトマンのガス・ロベル(クリント・イーストウッド)は年齢のせいで目が弱っていた。球団フロントはガスはもう年ではと考え始め、来期の契約を見合わせようと検討し始める。一方、ガスの娘で弁護士のミッキー(エイミー・アダムス)は事務所の経営パートナーへの昇進がかかった正念場を迎えていた。しかしガスの健康に問題があると危機、彼の元に駆けつける。監督はロバート・ロレンツ。主演のイーストウッドはプロデュースにも参加している。
 心温まる映画として実に王道、ごくごく普通にいいハリウッド映画だった。ごくごく普通、ではあるのだが、こういうタイプの「普通」の映画を最近はあまり見ていなかった気がする(本作の前に見た『砂漠でサーモンフィッシング』も普通にいい映画だったけど、あれはハリウッド映画って感じじゃない(実際ハリウッド映画ではない)し・・)。反目しあう父と娘が、人生の曲がり角で少し歩み寄る。あくまで歩み寄るのであって、理解しあったとまではいえないところが慎ましくていい。
 ガスとミッキーのやりとりは大概かみあわない。親子間ではよくあるかみあわなさなのだが、特に父娘だと、ちぐはぐさが際立つ。この2人の場合、仲介者になったであろう母親(ガスの妻)が早い段階で死んでしまっただけに、かなりこじれている。ガスはミッキーの真剣な話をはぐらかすが、どういう対応をすればいいのか本気でわからないと同時に、娘とがっぷり向き合うのが怖くもあるのだろう。ガスはミッキーに対する負い目があるし、彼女と自分の世界は違うと思っている(違う世界で生きる方が娘にとって幸せだと思っている)節がある。ミッキーはミッキーで、ガスが自分と向き合わないことに傷つき、子供の頃にガスに捨てられたという思いが払拭できない。言葉にしなくても重いが伝わることもあるけど、大概の場合はちゃんと言葉にしないと伝わらない。家族だとよけいに油断する、あるいは却って遠慮して言えなかったりするなと思った。
 イーストウッド主演作とは『グラン・トリノ』とちょっと被る、世代交代を示唆するところがあるが、『グラン・トリノ』よりもおだやかで、一緒に歩んでいこう、というような雰囲気。それにしても、イーストウッド、年取ったな・・・。冒頭、おしっこの切れの悪さを毒づくところなど、あまりにハマっている(笑)
 気持ちのいい映画だが、いわゆる憎まれ役、ライバル役が一貫して、最初から嫌な奴として描かれている点は気になった。彼らは彼らで、主義主張があるはずで、それが間違っているというわけではないと思うのだが。
 ガスのスカウトの方針は、同じ野球映画でも『マネーボール』とは真逆。徹底してアナログだ。ただ、対称的な方法ではあるのに突き詰めると同じ地点に着地していると思う。これは、アメリカ人にとって野球が特別なもの、ある種の神聖なものだからではないかと思う。