山陰地方の港町、上終(カミハテ)で、死んだ母親の代から小さな雑貨店を営んでいる千代(高橋恵子)。店の近くの断崖は自殺の名所で、自殺しに来た人は千代の店でコッペパンと牛乳を買うのが慣わしだと、ネットでも噂になった。千代は毎朝コッペパンを焼き、店に来る客を待つ。監督は本作が長編デビュー作となる山本起也。
 のったりのったりとしたテンポだが、妙に惹き付けられる絵のある作品だった。舞台となった土地の風景の力(実際に自殺の多い土地だそうだ)が大きい。単に風景がきれい、迫力があるというだけではなく、この風景だからこういう話になったという、ストーリーとがっしり組み合った風景だ。山陰地方の秋冬って、こういうふうにどんよりしているんだろうなぁ・・・。千代が暮らす家の室内が、映画に出てくる室内としてはかなり暗く、彼女の輪郭が薄暗がりに馴染んでいく感じがするのが印象に残った。
 予告編だと、千代は「死にたい人は死ねばいい」と達観しているように見える。ただ、千代はそれでいいと思っているわけではないということが、徐々に見えてくる。彼女は死に行く人を見送ってきているが葛藤がないわけではないのだ。やっぱりあの時止めておけば、という気持ちと、止めても無駄という気持ちがせめぎあっているのだ(実際、本編でも、死にたがっている人は一旦止められても死んでしまう)。彼女が思いを口にすることは殆どなく、情緒的な部分は控えめに描かれているのでその葛藤が前面に出てくることはないのだが、ちょっとした表情に見え隠れする。
 演じる高橋恵子は久しぶりの映画出演だそうだそうだが、常に少し怒っているような風情が風景と合っていたと思う(流石に、あの商店の女将さんとしてはきれいすぎるが)。また、寺島進が千代の弟(だと見ているうちにわかる)役なのだが、会社の金策に困っている感じが生々しくて参った。ある人の通帳を持ったままの後姿をロングで長めに撮っているシーン、彼の躊躇が伝わってきてぴりぴりした。