マーセル・セロー著、村上春樹訳
文明が衰退し、人口が極端に減った世界。「私」は極北近くの廃墟と化した町に一人で暮らしている。町ではめったに人は見かけられず、人々は僅かな物資を奪い合うように生きていた。「私」はかつての仕事にならい毎日町を巡廻していたが。コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』を思わせるような、終末感に満ちた世界が舞台。他の土地との通信手段も失われているので、町の外の世界のことはわからず、具体的に何が起きてこうなっているのかも当然わからない。「私」が子供の頃は世界はまだ豊かで穏やかだったのだが、それが失われていく過程の、なす術もない感じがとても怖かった。そして本作の世界は(特に後半、世界の汚染が明らかになっていくと)他所の世界の話とは思えないのだ。強いリアリティを持って迫ってくる。「私」の生活により作品世界のリアリティを積み上げていく著者の筆力はもちろんだが、本作が日本で出版されたタイミングが、よりアクチュアルさを強めているように思った。今、世界的に「終わる」感覚が(少なくともいわゆる先進諸国では)強まっているのだろうか。