新興宗教の教祖ルイ(藤原竜也)は飲酒運転のうえ交通事故を起こし、同乗していた流美(水原希子)はこん睡状態、衝突したバイクに乗っていた少年は死亡する。マスコミから身を隠したルイには3人のボディガードがつけられる。ルイは教団解散を決意するが。監督・脚本は豊田利晃。予告編だと、ルイと流美、ボディガードが中心となる話のように見えるが、実際はルイの物語だと思う。
 久々にキレのいい豊田監督作品を見ることができてほっとした。最近の作品『蘇りの森』『モンスターズ・クラブ』では、そんなに長尺ではないのにやたらと長く感じられたのだが、本作はあっという間。編集のキレがよくなっているのだろうか。パッパッと次のシーンに移ってテンポがいい。全編通して疾走感がある。
 ルイは信仰を説く立場だが、自身は信仰を持っているようには見えない。死は救いだと説いてきた彼が、生にしがみつき一瞬の輝きを見せる様は、死と再生を描く寓話のようだ。前2作でも具体的な出来事というよりも寓話的な物語を目指していたように思ったが、本作でようやく作劇と寓話性が噛みあった感じがする。
 ルイを演じる藤原は、これまで、舞台だと圧倒的に映えるが、その演技法がTVや映画にはハマりきっておらずクドく見えてしまうという印象だった。しかし本作ではちゃんと映画俳優としての演技が確立されており、いつになくいい。彼の映画の仕事としては間違いなくベストだろう。整えられた表皮が徐々に崩れ落ちていく、どこかチンピラ臭い、うすっぺらい感じが絶妙だった。倦んだ表情も素晴らしい。
ルイと相対するボディガード役の松田龍平は、何者かになろうという意思が感じられない不思議な存在感。やたらと自然体で、ルイとは対称的なキャラクターになっている。こういう人には神も信仰も必要ないだろうなという感じがする。
 なお、豊田作品ではおなじみの脇役陣もいい味が出ている。松尾創路演じる妙に軽妙な幹部(予告編でも使われている「さくっとやっちゃってください」がいいなぁ(笑))や、ルイの母親役の大楠道代の粘っこさには凄みがある。また、音楽がいい!豊田監督、一貫して音楽だけは毎回かっこいいんだよな(笑)。あ、今回は映画そのものもかっこいいんですよ念のため!