郊外の家に住む一家。両親は3人の子供達を外の世界から守る為、ずっと家の中だけで育てている。家族の間には厳格で、他人から見たら奇妙なルールや独自の言葉使いが適用されていた。しかし、父親が長男のセックスの相手として、外からクリスティーナという女性を連れてきたことで、子供達の間に変化が生まれてくる。監督・脚本はヨルゴス・ランティモス。日本ではあまり公開されていないギリシャ映画。
 この一家がやっていることは奇妙だが、当人達は全く真面目だし、自分達がやっていることがおかしいという認識は全くない。両親は「他所とは違う」という認識はあるが、子供達は他所とは違うことすらわかっていない。ただ、こういう独自のルールやコミュニケーションは、どの家庭でも多かれ少なかれあるのではないかと思う。部外者から見たら、自分たちも奇妙で滑稽かもしれない。家族の間程度の規模ならともかく、職場とか国家とかに規模を拡大していっても、同じような奇妙さ、閉鎖性が往々にしてあるんじゃないかと思うと、どうも薄ら寒くなる。意味不明に行き交う単語や姉妹の不思議ダンスなど、笑えるシーンも色々あると思うのだが、その薄ら寒さがまとわり付いて息苦しく、どうも笑えなかった。外の世界に興味を持った長女が辿るであろう運命を考えると特に。クリスティーナが「外部」を持ち込んでしまうのは、なかば善意、なかば自分の言葉が通じないことへのイラつきからなのではとも。「物々(必ずしも物とは限らないが)交換」という外の世界の経済ルールを持ち込めば彼女にも共通言語ができる。
 ビジュアルも脚本も、構成が非常にきっちりとしていて几帳面な印象。寓話としてしっかり作りこみすぎで監督のドヤ顔が目に浮かぶところが、ちょっと鼻につくが、白が基調のパキっとしたビジュアルはなかなかよかった。
 なお、後半には主に80年代のヒット作を中心とした映画ネタが盛り込まれているらしいのだが、この時代のヒット作をあまり見ていないのでよくわからず、損した気分に。もっと勉強しておくべきだった・・・。「フラッシュダンス」ネタすら後から指摘されて気付いたくらい。