ヴィクトル・ペレーヴィン著、尾山慎二訳
アポロ計画が成功したころのソ連。子供の頃から月に行くことを夢見、宇宙飛行士になった青年オモンは、月への飛行を命じられる。しかしその旅は戻ることのできない片道切符だった。自転車式の月面自動車(内部の壁には数日分の缶詰)、毛布で補強した宇宙服という、子供だましのような装備での宇宙旅行だが、本作の宇宙飛行士訓練、そして月面での行動は子供の想像の中の出来事のようだ。冒頭、オモンはサマーキャンプに入れられるのだが、全てそこで見た夢なのではとも思えてくる。いきなり場面転換され、ここで何か恐ろしいことが起きたのでは?と思わせる省略の思い切りのよさも夢の中の出来事っぽい。オモンらが上層部の命令に逆らうことは許されない、そもそも選択肢がないというところは当時のソ連社会を投影しているのだろうが、不条理な夢のようでもある。不条理な夢を描写すると当時の社会に似ているというのが恐ろしいのだが。