不況で仕事がなく、高校のレスリング部コーチを副業にしている弁護士のマイク(ポール・ジアマッティ)。身寄りのない老人レオの依頼を引き受けるが、後見人報酬に目がくらんで「レオは自宅で暮らすことを望んでいます、私が世話します」と後見人を引き受けてしまう。レオは介護施設に入れて報酬だけ頂戴しようというのだ。そんな折、レオの孫カイルが母親と反りが合わずに家出してレオを訪ねてくる。渋々自宅で預かることにしたマイクだが、カイルにレスリングの才能があると知り、心境が変わっていく。監督はトム・マッカーシー。
 サブタイトルは「ダメ」を連呼しているが、マイクもカイルもそうダメな人ではない。マイクは一応家庭を維持し、手に職もある。カイルはレスリングで奨学金をもらえるかもというレベルの実力者だし、進学したいという意思もある。ただ、2人ともある局面でダメな部分が出てしまう。それぞれ抱える事情が、うんうんそれは辛いよなぁ・・・と他人事とはいえ共感でき、しんみりとした。
 特にカイルは、普段は結構いい奴だし学校でもそれなりに上手くやっていけることが窺えるだけに、ある事情で急に情緒不安定になるのは見ていて辛いというか、かわいそうでねぇ・・・。親は選べないもんなぁ。しかしカイルの母親も、薬物中毒でいわゆる母親らしい女性ではないのだが、悪い人には見えない。この人はこの人で、色々あるんだろうと思わせる。母親とレオとの親子仲も決して良くなった様子が窺われるのだ。どの人も、特に善人でも悪人でもない、ごく普通の人たちで、監督の視線のフラットさが好ましい。人生はままならないが、かといって悲観するほどでもない、という「ぼちぼちいきましょう」感がある。
 ただ、マイクの親友だけはキャラが突出している。離婚した奥さんの愛人に猛烈に嫉妬して嫌がらせをやめられなかったり、部外者なのにレスリング部にのめりこんだり、仕事の才覚はあってリッチなのに、やることなすこと子供っぽく(高校生と意気投合してるくらいだからなー)アンバランス。そんな彼でも周囲が「そういう人」として受け入れているのがいいなと思った。パーフェクトな人などいないのだ。
 マイクは最後、「転落」したとも言えるのだろうが、本人も家族も別に不幸そうではないし、自虐的でもない。彼らにとって重要なことはそこではない。その大事なことさえ踏み外さなければいいじゃないかという、ある意味楽観的なタフさを感じた。好ましい佳作。