フェルディナンド・フォン・シーラッハ著、酒寄進一訳
弁護士である「私」が関わることになった11の犯罪。どれも大なり小なり奇妙な奇妙な事件だった。刑事事件弁護士である著者が、実際の事件に材を得て執筆した短編小説集。ドイツではヒットし日本でもかなり評判になったが、確かに面白いし小説としてシャープ。各編ごく短く、無駄がない。きっちりそぎ落とした作品だと思った。そぎ落とされた姿から見えてくるのは、犯罪そのものというよりも、それを実施する人間の不可思議さだ。取り上げられる犯罪の多くは、動機が第三者にはよくわからない、説明し得ないようなものだ。犯人本人にも、なんでそんなことしたのか分からないこともある。犯罪の動機なんてどういう場合も本当はあいまいで、便宜上「動機」として記述されているに過ぎないのでは、と思えてくる。著者の視線も、人間て変なところあるよなー面白いよなーとクールに見つめているように思った。「私」の主観をあまり挟まない(書いているのは「私」の主観でなのだが、私がどうこう思った等々を入れない)ところがいい。