ダニエル・アラルコン著、藤井光訳
内戦状態が長らく続いたある国では、行方不明者を探すラジオ番組「ロスト・シティ・レディオ」が放送されていた。番組DJである女性ノーマのもとを、ジャングルの中の村から来た少年ビクトルが、村の行方不明者のリストを持って訪ねてきた。そのリストの中にはノーマの夫の名前もあった。おそらく南米の、架空の国を舞台にした小説。内戦が長期化し、軍とゲリラが戦いを続けた結果、極端な監視社会になっている。ノーマの夫もゲリラ活動に関わっていたらしく、ある日失踪した。現在と過去が入れ替わり立ち代り語られ、レイの身に何があったのか、徐々に見えてくる。過去と現在が時系列入り乱れて語られる構成には最初少し混乱したが、過去がべったりと今に張り付いており逃れられない、ノーマの現状であり、内戦の傷跡が癒えない国の現状とも重なってくる。レイは、それほど政治活動に熱心という風ではないのだが、時代の空気に流されなんとなく巻き込まれて、取り返しのつかないことになっていく。この「なんとなく」事態が進展していき、ノーマもレイも当事者であるはずなのにどこか実感が薄く、気付いた時にはもう遅いという部分が薄ら寒い。大きな(良くない方向への)変化はそういうふうにやってくるものかと。