眼科医のトム(マーティン・シーン)の元に、息子のダニエル(エミリオ・エステヴェス)がピレネー山中で事故死したという知らせが入った。現地へ飛んだトムは、ダニエルがスペインのサンティアゴ・コンポステーラへの巡礼の道中だったと知った。トムはダニエルの遺灰と共に、巡礼の旅に出る決意をする。監督はエミリオ・エステヴェス。
 ダニエル役の人がトム役のシーンに良く似ていて本当の親子みたいだなぁと思っていたら、本当に親子だった(笑)。この息子役の人が監督のエミリオ・エステヴェス。息子の監督作に父親が主演しているわけだ。
 巡礼ということで相当な距離を歩くのに、初めての人がこんなに歩けるのか?とは思ったが言うだけ野暮だろう。道々の風景が非常に美しくて、それを眺めているだけでも満足感がある。この風景を見ると、やはりちょっと巡礼してみたくなる。やっぱり山道はいいわー!巡礼の道のり要所要所の町を巡る、ロードムービーとして楽しい。
 父親と息子の関係がどういうものであったか、あるいは息子がどういう人間だったかは、あまり言及されることがない。トムが息子に関する回想をするのも、空港に息子を送っていく車中の短いシークエンスだけだ。あとは巡礼仲間との会話の中で、ぽつりぽつりと触れられる程度だ。そこからわかるのは、仲が悪いとは言わないまでもさめていたこと、トムはダニエルの価値観を認められなかったということだ。
 トムは悲しみを語ることなしに、もくもくと歩く。歩くことは、一人で考えること、思いを消化していくことと相性がいい。これは、トムと行き会った巡礼者たちも同じだ。彼らの抱える「事情」はつまびらかにはされず、さらっと見せられる程度だ。巡礼に赴いた具体的な理由が語られるのはアイルランド人の作家くらい。きさくなオランダ人男性は「やせたいから」だというが、おそらく本当の「事情」はそこ以外にあると匂わせられる。
 彼らがときに助け合ったり迷惑かけあったり、それでもほどほどに距離をもって歩いていく、基本は一人で歩く(し、この先の人生は多分交わることがない)のだというところが、節度があっていい。