マーガレット・ハンフリーズ著、都留信夫・都留敬子訳
ソーシャルワーカーである著者は、1986年、オーストラリア在住の女性から、女性にイギリスにいるであろう自分の親族を探してほしいと頼まれる。その女性は子供の頃にオーストラリアに移民し、以降イギリスとは音信不通、自分に家族がいるのか、どうしてオーストラリアにわたったのかもわからないというのだ。著者は調べていくうちに同じような事例が多数存在することを知る。第二次大戦後、1960年代に至るまで行われていた、イギリスからオーストラリア他への児童移民を取り上げたノンフィクション。児童移民というものについては、本著が原作となった映画『太陽とオレンジ』を見て初めて知った。映画では移民先はオーストラリアだったのだが、本著を読むとオーストラリア以外にもニュージーランド、カナダ、アフリカなどへも。施設にちゃんと保護され無事に育った人たちも相当数いるが、ひどい施設はほんとひどい。本著は児童移民の真相を明らかにするという側面もあるが、それ以上に、このような苦しみがある、と示す側面の方が強いと思う。こういう事例を知らないと(知っていても)思い当たりにくい類の苦しみなのだ。移民した人たちの中には、劣悪な環境や虐待により自尊心を損なわれ、ずっと自信を持てないままの人が少なくない。また、虐待を受けなかったとしても、自分の親は誰でどこから来たのかというルーツがわからないことは、その人の根幹をあやふやにしてしまい傷つける。著者はごく普通の善意と職業倫理をもって問題を解決しようとするのだが、移民一人一人への寄り添い方が真摯。相手の子供の部分(虐待を受けた部分)に寄り添うことが出来る人だから信頼を勝ち得た(し調査を続けることができた)んだと納得できる。力作。