脱北して韓国ソウルにやってきた青年スンチョル(パク・ジョンホム)。友人の家に居候するが職探しもままならず、ポスター貼りやチラシ配りで日銭を稼いでいた。心のよりどころは拾ってきた白い子犬だが、友人には迷惑がられる。ある日教会で、スンチョルは聖歌隊の女性スギョンに心惹かれる。監督・主演・脚本はパク・ジョンホム。監督の友人がスンチョルのモデルとなっているそうだ。
 不器用な青年の青春物語であるが、同時に、北朝鮮から韓国への脱北者の生活を描いており、脱北トリビア的な、言い方が悪いがものめずらしさがあるった。脱北してくると住民登録はできるが、住民登録番号で脱北者かどうかわかってしまい、身元保証が必要な安定した職にはつきにくいというのが切ない。やっぱり、脱北者だと雇いたがらない人が多いようだ(中国からの移民だとそこまで抵抗ないみたいで、スンチョルは面接でも中国出身と自称している)。日本と同じく、身分証明なしで働ける職なんて数も時給も限られているので、スンチョルの生活はかなり苦しい。貧しさが悪循環しているみたいで、見ていて非常に辛い。
 スンチョルの生活が極力情感を拝して淡々と映され、そこに、彼への強い肩入れや同情は感じられない。スンチョルに寄り添っているが、この映画における視線が彼の味方というわけではなさそうだ。スンチョルは基本生真面目な青年で、自分の倫理観に従って行動し、サギ行為には加担しない。地道に働くことを望んでいる。しかし、彼の態度に人をイラっとさせるものがある、という視点も感じる。スギョンへの思慕にしろ、友人との関係にしろ、もっと他にやりようがあるのではと思える。
 ただ、その場に応じた振る舞いを出来る、そつなく振舞えるというのは、それができる余裕のある背景があって、初めて身に付くものなのだろう。スンチョルの鈍くささは、彼がそういうスキルを身に付ける余裕がないまま生きてきた(終盤で語られる故郷での出来事が強烈)ということなのだと思う。その余裕を手に入れるために、スンチョルはある選択をするのだが、それは今までの彼を裏切ることでもある。他に脱出口はないのかと思うと、やりきれない。