フランス映画未公開傑作選にて鑑賞。休暇中の刑事ベラミー(ジェラール・ドパルデュー)を見知らぬ男が訪ねてきた。その男ノエル・ジャンティはモーテルにベラミーを呼び出し、自分はある男を殺したと告白して写真を見せる。その写真の男は、ジャンティによく似ていた。ジャンティの話は、エミール・ルレによる保険金詐欺~全焼した遺体と車輌が発見された事件に関係しているらしいのだ。監督はクロード・シャブロル。2009年の作品でこれが監督の遺作となる。
 そこそこ長いはずなのに流れがダレず、最後まで緊張感が絶えない。エピソードの省略の仕方の思い切りがいいのではないかと思う。そもそもジャンティが「告白」するシーンは具体的にはなく、その後のベラミーの行動から、どういう内容だったのか何となくわかってくるのだ。「告白」の真相を探るだけでなく、どういう告白だったのか知る時点で一つのミステリーになっている。
 人の、善人でもなく悪人でもないという姿が一貫して描かれている。それはジャンティや彼に関わる女性たちだけでなく、ベラミー自身についてもだ。ベラミーがなぜジャンティを助けようとするのか、周囲の人間がいぶかしむように少々不思議ではある。しかし終盤、ベラミーによるある告白で一気に見え方が変わる。これはベラミーが扱う事件の話である以上に、ベラミーという男の話だったのかと。
 ベラミーには荒っぽく頼りない弟がおり、ケンカが絶えないのだが、これも「出来のいい兄と困った弟」という一見した図式とは、また違った姿が立ち現れてくるのだ。弟と妻が一緒にいるとやたらと勘ぐったり嫉妬に駆られたりするのも、そういうわけだったのか!と腑に落ちた。
 ベラミーが「あなたは不可解な人よ」と妻に言われ、むっとして「現実を見ているからか」と言ったとたんにマンホールに落ちそうになるシーンがある。彼はむしろ足元が見えていない、自分のことをわかっていない(わかっているが見ようとしない)人なのでは、と暗示されているようにも見える。