ハンガリーの田舎町。郵便配達夫の青年ヤーノシュは、老いた音楽研究家エステルの世話をしている。エステルの別居中の妻は、風紀取り締まり運動に参加するようエステルに話してほしいとヤーノシュに頼む。一方、町には移動サーカスがやってきた。目玉の見世物は“クジラ”と、“プリンス”と名乗る男。“プリンス”は住民を煽り、町に不穏な空気が流れる。監督はタル・ベーラ。2000年の作品となる。
 最新作『ニーチェの馬』と比べると、やっぱりこの頃は若かったのか・・・。ここ10年で飛躍的に上手くなったんだなぁとしみじみ。『倫敦から来た男』や『ニーチェの馬』では執拗な長回しが見られるが、本作はまだその長回しや、2時間半近い尺に、画が耐え切れていないように思った。大分間延びしている部分もある。ただ、妙な迫力があるのは変わっていない。冒頭の、居酒屋にヤノーシュが入り、客達が太陽と地球と月を模して踊り始めるシーンからして、
 所々、すごく怖い、緊張するシーンがあった。エステルの妻と、その愛人である警察署長が踊るシーンがあるのだが、警察署長は酔っ払っており手には拳銃が。今にも暴発するんじゃないかと不安でしょうがなかった。また、広場には次々に男たちがたむろってくるが、なぜか皆不機嫌でヤノーシュを敵視してくる。“プリンス”が町の人を煽っているらしいが、彼の声や姿は直接的には現れない。カリスマが不満を抱えた民衆を煽って暴動を起こさせる、その暴力はより無力な層(本作の中では病院の入院患者)に向かうという展開は、本作の10年後である現在、さらにシリアスな問題に感じられた。