D・M・ディヴァイン著、山田蘭訳
友人たちとの海水浴の後、13歳の少女ジャニスが姿を消し、全裸死体で発見された。町の若き医師ケンダルが容疑者として浮上するものの、彼は崖から転落死してしまう。ケンダルの弟マークは留学先から帰国し、兄の死、そしてジャニスの死の真相を調べ始める。事件の複数の関係者による一人称で構成されている。この人に見えていることがあの人には見えていない、という部分がミステリとして生きている。が、この「見えている/いない」が一番面白く生きているのはミステリの本筋とはあまり関係ない男女関係の部分。ケンダル、マンディとマークの関係がちょっとメロドラマっぽい。特にマンディの「本当は美人なのに美人と見られたくない(性的な対象として見られたくない)」という設定はちょっと昔の少女マンガとかラノベに出てきそう。また、マンディの義母の自分に都合の悪いことは見ないという側面、実父のことなかれ主義な無責任さは現代的でもある。ケンダルのイケメンだが意思の弱い人柄もいい造形だった。登場人物の造形が具体的、かつその具体性がミステリとして活用されている。ちょっと古風(さすがに時代は感じる)だが人間ドラマとしても本格ミステリとしても面白かった。ディヴァインは人間の書き方にちょっとした意地の悪さ、視線の鋭さがある。特に女性の造形は当時としては珍しかったんじゃないだろうか。いわゆる「素敵なヒロイン」てあまり出てこない(笑)。ディヴァイン作品の中でも個人的には特に満足できた一作。訳が現代的で読みやすいのも良。