アントニオ・タブッキ著、和田忠彦訳
イタリアを代表する作家の短編集。題名の通り、老い、そして時の流れを意識させる物語ばかりだ。また、旧東ドイツの諜報員であったり、ハンガリーの軍人で旧ソ連と闘った経験を持っていたり、国連平和維持軍で被爆した兵士であったり、年齢的な老齢期だけでなく、ある時代の黄昏を感じさせる登場人物が多い。作品全体がたそがれており、どこかさびしい。しかし、それが動乱の時代、戦時下であっても過去を懐かしみ、かつての仇敵に対して近しさを感じるようになるという『亡者を食卓に』『将軍たちの再会』が印象に残った。距離的な近さよりも、ある時代を共有したという体験の方が、人と人とを親しくさせるという側面はあると思う。また、これから世の中に出ていくであろう少女と、傷ついた兵士の会話を描く『雲』は、少女の聡明さがほほえましくもあり、それ以上に痛切。この作品の兵士はまだ若いみたいだが、気分の上では老いており人生も終盤といった面持ちだ。そんな彼が少女(と彼女の未来)に向けるまなざしが胸に刺さる。どの作品の主人公も、まなざしは過去に向けられており、過去の方が現在よりも親しいもののようだ。しかし、最後に収録されている『いきちがい』では、過去と未来がふいに並び合うような、時間が伸び縮みするような不思議な感覚に襲われる。年齢を重ねてまた読みたい渋い作品集。