チャイナ・ミエヴィル著、日暮雅通訳
欧州にある都市国家ベジェルとウル・コーマ。この2つの国は地理的にはほぼ同じ位置にあるのだが、それぞれの領地が複雑に入り組みモザイク状になっている。ある日ベジェルで若い女性の他殺死体が発見される。ベジェル警察のボルル警部補は調査に当たるが、事件は2つの国にまたがる様相を見せ、謎の組織や封印された歴史までもが絡んできた。現代が舞台(ハリーポッターが流行ってたりするので現代でしょう)で現実と地続き感はあるが、2つの都市の設定だけSFないしはファンタジー混じり。2つの都市国家は壁等で区切られているわけではないので、隣の家が別の国(立ち入ったら当然不法入国)だったりする。そして、距離的には近くても、お互い「見えないことにする」というのが非常に面白い。当然、隣の家の人や通りの向こうの人は近くにいるから見える。が、見えていても見えないものとして処理するという習慣がどちらの国民にも徹底されているのだ。「見て」しまったら、あるいは境界を越えたら罰せられる(これを行う「ブリーチ」という行為・組織が問答無用でまた怖いんだ・・・)。不条理小説のようだが、これが日常的に行われているとどういう感じになるか、ということがシュミレートされていて大変面白い。でも似たようなことは日常的に行われているかもしれないなとも思った。小さい所だと都市部のホームレスとか酔っ払って道に寝ているような人とか、大きなところでは旧東西ドイツだったり、エルサレムだったり、また移民問題だったり。フィクションとして客観的に見ると、変な状況なんですよね。「見ていないことにする」行為の傍から見た薄ら寒さみたいなものを感じた。著者は政治的な意図はないと明言しているそうだが、優れた文学は、著者の意図の度合いによらず時代を反映するものなのだろうと思う。