ヒトラーが台頭し、ナチスの力が増しつつある1930年代のドイツ。大学教授のジョン・ハルダー(ヴィゴ・モーテンセン)は党から呼び出される。彼がかつて書いた小説がヒトラーに気に入られたと言うのだ。ハルダーは党から論文を書くように要請され、徐々に党員として組み込まれていく。監督はヴィセンテ・アモリン。イギリスの劇作家、C.P.テイラーの戯曲を映画化した作品だ。
 約90分という上映時間の割には長く感じる冗長なところもある作品なのだが、なかなか渋い。主演のモーテンセンが珍しく気弱なキャラクターなのが新鮮だった。
 ハルダーは「いい人」だ。エキセントリックな妻や病気の母親を支えて家事をこなし、幼い子供2人の世話をする。妻と母親に振り回される姿には同情するくらいだ。思想的にはリベラル寄りで、親友のモーリス(ジェイソン・アイザックス)がユダヤ人ということもありナチスの政策には反感を持っている。そんな人がナチスの一員として働くようになってしまう。
 ハルダーはいい夫・父親・息子として家族を守ろうとするが、その為にはナチスに協力した方が有利なのだ。最初は「このくらいなら・・・」という感覚で始めたことが、どんどん後戻りできなくなっていく、じわじわ包囲されていく様が怖かった。
 また、ハルダーはいい人ではあるが、いまひとつ押しが弱く、相手に押し切られがちだという面も見えてくる。ナチスに協力を要請された時は自分と家族を守る為という理由があるし、自作を褒められて悪い気はしなかったという所もあるだろう。が、女生徒に迫られた時も結局押し切られてしまう(笑)。そもそもそういう性格なのか!と突っ込みたくなるが、そういう弱さは非常にありがちであんまり強く非難できない。彼が、特に友人に対して取った態度は卑怯ではあるが、あの状況で他に選択肢があったか?というと何とも言えないのだ。
 ハルダーの愛人(後に後妻)は屈託なくナチスを支持する。当時はこういう、特に思想も当然悪意もない、ごく普通の人達が多かったんだろう。そういう人達がナチスを支持してしまう、というところが一番怖かったし、他人事ではないと思える。