「フレデリック・ワイズマンのすべて」にて鑑賞。「フレデリック・ワイズマンのすべて」にて鑑賞。1974年の作品(モノクロ)になる。ヤーキーズ霊長類研究所で行われている実験の数々を撮影したドキュメンタリー。ヤーキーズ霊長類研究所は、霊長類に関する生物医学的、行動学的研究における先駆的な施設として知られていたそうだ。
 本作、見ていてどうにも居心地が悪くなる作品だった。カメラが映すのはサルを使った様々な実験なのだが、どの実験がどういう目的で行われているのか、一切説明はない。テロップやナレーションによる解説は一切なく、ただただその場が映し出されるというのがワイズマン作品の特徴だが、本作では特に、実験の内容がわかるような手がかりは、意図的に排除されているように思う。
 その為、人間がどういう理由でサルをいじっているのかわからず、時にサルを虐待しているようにも見える。本作は「動物を使った実験は残酷だよ!虐待だよ!」と声高に訴えるものでは全くないし、研究者を悪者扱いするようなものではない。しかし同時に、それらの実験によってもたらされる科学技術の素晴らしさを歌うものでもない。ただ、サル側に共感、というと言いすぎなのだが、若干同情させるような編集になっているのではとは思った。例えばワイズマン監督作品でも『肉』は、最初から「商品」として家畜を撮っており、個々の生物という視点は薄かったように思う。しかし本作では、(数の絶対数が違うし種類も様々という面もあるが)意思のある生物としてサルにカメラを向けているように思った。サルの顔のクロースアップが結構多いのも、個体としてのサルを意識させる。
 本作公開当時は、本作が研究所を貶めたと非難する人々と、生体実験に反対する人々との間で激しい論争が起きたそうだが、それも頷ける。一見フラットな見せ方をすることで、背後にあるものが現れてしまったような作品だと思う。