北極圏の島にある、ロシアの気象観測所で働く2人の男。周囲の放射能を測定し、定期的に無線通信で本部に報告するのが彼らの仕事だ。ベテラン職員のセルゲイは真剣に業務に取り組んでいたが、新人のパベルは遊び気分が抜けない。ある日、セルゲイはパベルに報告を任せて鱒釣りに出かけた。パベルは観測時間を逃し、嘘の記録を伝えてしまう。更に、本部から預かったセルゲイ宛の深刻な知らせを、セルゲイに伝えそびれてしまう。監督はアレクセイ・ポポグレブスキー。
主演2人以外の俳優は一切出てこない、完全に2人芝居。この2人の顔つき、演技がとても良かった。また、北極圏の荒々しい風景にも魅力がある。こういうところで数年間、ほぼ2人だけで暮らすってどういう感じだろうなー、人間関係はだいぶ煮詰まってきついんじゃないかなーと思った。仕事上で一緒になっただけだから、必ずしも人として相性いいとは限らないだろうしなぁ・・・。その、人間関係が煮詰まってきつい、という部分が本作の核にある。この2人の間で起きるドラマは、多分、ほかにも同僚がいたら起こらなかったんじゃないかと思えることだからだ。
パベルはセルゲイの荒っぽい言動に萎縮していて、重要な伝言を言いそびれ続けてしまう。一度言いそびれると余計に言い出しにくくなるという悪循環は、容易に想像できてお腹が痛くなりそうだ。ただ、言い出しにくいシチュエーションというのはわかるが、パベルの行動は少々行き過ぎなように思う。確かに、自分のミスを申告しなければならないのは気が重いし、相手が言動の荒っぽい先輩ならなおさらだ。しかしそれでも、仕事の上のことなのだし、何より人の生き死にがかかっていることだ。普通は怒られることを覚悟でちゃんと話すだろう。少なくとも、逃げ出すほど(しかも極寒の北極圏で)のことではない。
パベルが子供っぽい人物だという描写は、ドラム缶で遊んでいる様やお菓子を隠し持っている様子でわかるのだが、度が過ぎている。子供だって、子供なりの知恵があるはずだと思うのだが・・・。物語上、あるシチュエーションを作りたいが為に、そこに至るまでの心理的なプロセスが乱暴になってしまっている。 また、2人だけの観測所だとわかっていてあんなことを本部がさせるかなーというような、仕事上これは危険なのでは?という部分が気になった。
 男2人の心理劇かと思ったら、むしろ追い詰められていく1人の男の心理劇に近い。最後にいきなり父性が立ち上がるあたりに、ロシアもまた(アメリカとはちょっと違った方向性)父性の国なんだろうかと思った。