日明恩著
公務員という安定した身分の為に消防士になり、早く事務方にまわりたいとぼやく大山雄大。彼の管轄で老人世帯の失火による火災が相次いだ。ひっかかりを感じた雄大は捜査を開始するが、事件の真相には意外な人物が絡んでいた。『鎮火報』に続く大山雄大シリーズ2作目。前作同様、お仕事小説としてもとても面白いのだが、何より、キャラクターそれぞれの(端役にいたるまで)描き方がいい。この人のこういう部分は、こういう見方もああいう見方もできる、というような多面的な描き方をくどいくらいにしている。人間は一色ではなく曖昧で割り切れないという見方が一貫していると思う。本作では特に、人と人との関わり方の多面性にスポットが当たっているように思った。雄大がある少年との関わり方に悩むところは、雄大の誠実さを感じるし、ひいては作家の真面目さ、誠実さが見える。主要キャラクターの背景も少しずつ明らかになってくるので、更に続編が読みたい。