山の中、養蜂家の父と母と暮らす少年ユスフ。しかし森の蜂が姿を消し、父親は巣箱を置く場所を探す為に家を出た。監督・脚本はヤミフ・カプランオール。ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作。
 撮影、録音が素晴らしい。冒頭、森の奥から男と馬が姿を現し、男が木に縄をかけるまでのカメラを固定しての長回しに、一気にひきつけられた。また、室内などのシーンはかなり薄暗いのだが、輪郭がぼんやりとした状態での絵が妙にいい。舞台は殆どが山の中、山の合間で風景を眺めているだけで嬉しくなった。また、風で木の葉がこすれる音や枝がきしむ音、虫や鳥の声など、森の気配みたいなものが濃厚に感じられた。ユスフの世界は家庭と学校(あんまり居心地よくなさそうなのが見ていて切ない)の行き来を中心にできていて、決して広いわけではないのだが、彼が暮らす森の奥行きが感じられて、閉塞感はない。
 ユスフと父、母、級友らの関係が、セリフ以外の部分でも丁寧に描かれている。特に父親との関係は濃密だ。2人は同じ世界を共有しており、同じ言葉で話す。父親がユスフの牛乳をこっそり飲んであげるところなど、共犯者めいてもいる。父親が知人の子供に優しくしているのを見てユスフが嫉妬するところなど、本当にお父さん子なんだなーとおかしくなる(この「知人の子供」とユスフの関係も後にわかりなるほど、と思った)。対して、ユスフと母親の関係は、そこまで濃密ではない。母親とはもちろん家族であり、お互い愛情があるのだが、一緒に暮らしてはいても、父親とのように魂を共有しているという感じではない。  母親がいる世界はより現実的な「生活」に根ざしたものだ。父親が姿を消してから、徐々に母親との距離を縮めるユスフの姿は、彼の成長を感じさせるが、同時に一抹の寂しさも感じる。半分「あちら側」にいるような子供の時代は終わってしまったのかなと。
 ユスフがどういう子供なのか、どういう暮らしをしているのか、学校ではどういうポジションなのか等、あえて説明はしないがちょっとづつ見えてくるという設計の仕方が上手いなと思った。