スウェーデンで休暇を過ごしている様子の男女。しかし雪原で銃声がするなり男は狙撃手を射殺し、自分が同伴していた女性もまた射殺した。その男・ジャック(ジョージ・クルーニー)はプロの暗殺者。何者かが彼をねらってスウェーデンまで追ってきたらしい。急遽ローマへ飛んだジャックは連絡係と接触。田舎町に身を隠せと指示されるが、指示された町とは別の小さな町に身を隠す。狙撃ライフル製作の仕事を請け負い、静かに暮らすジャックだったが。原作はマーティン・ブースの小説。監督はアントン・コービン。
 コービン監督の前作『コントロール』は、元々写真家なだけに映像にははっとするようなところがあったが、少々冗長でダレるなぁと思った。しかし本作は原作つきというところがよかったのか、脚本の手腕がよかったのか、地味ながら緊張感のある好作になっている。
 暗殺者が主人公ではあるのだが、潜伏中ということもあり、やっていることは至って地味。ライフル製造に必要な素材を集め、音を出さないように地道に作業に勤しみ(大きな音が出る作業は、教会の鐘の音にあわせて行うなどすごく慎重!)、収納用ケースも自作する。この一連の作業が、、そういう素材から作るんだーという意外性も含めて、お仕事映画的で面白い。おそらく原作にある描写なのだろうが、作業のディティールの拾い方が丁寧なのだ。また、この職業だからこういう立ち居振る舞い・所作になってしまう、というジャックの職業病のような部分も面白い。お仕事映画というジャンルでもいいくらいだと思う。
 暗殺者としての仕事の様子と平行して、職業を離れた、1人の中年男性としてのジャックの生活が映されていく。話し相手は神父となじみの娼婦くらいの静かな生活だ。ジャックは徐々に、田舎での生活に馴染み、「普通の人」としての生活を思い描き始める。彼は仕事で一つの転機を迎えているのだが、それだけではなく、年齢的にも人生の岐路に差し掛かっている。ジャックの職業はかなり特殊だが、ある年齢でふと我に帰る感じは普遍的なものではないかと思う。年齢的に、職業人としても1人の人間としても残り時間が見えてきているだけに、ここから人生変えられるのか、そもそも変えていいものか、というジャックの迷いが切実なのだ。
 ジャックがある決断を下し計画を実行していく様は、ある終わりへとゆっくり進んでいくようで、見ていて心が落ち着かなくなる。しかし、ジャックは計画の成功・失敗とは別問題として(もちろん成功するにこしたことはないが)もう終わりにしたい、という気持ちが根底にあるように思えた。潮時を知った人の姿が渋く、どこかやるせない。
 ストーリーは大変地味、キャストもクルーニー以外は地味なのだが、舞台となるイタリアの田舎町の風景が美しく、華やかさを添えている。坂と細い路地が入り組んだ、可愛らしい町並みだ。また、ジャックが移動する時に度々挿入される、自動車が周りに何もない田舎道をずーっと走っていくロングショットや空撮も、幕間としてのアクセントになっていて良かった。『コントロール』ではこういう間の部分の作り方があまり上手くなかったんじゃないかと思う。